もうひとつ気づいていただきたいことがあります。
それは、街はずれの人気店ゾーンと駅との距離です。
どのゾーンも駅から約600メートルの距離にあるのです。
実は、この600メートルという距離は、東京の盛り場の半径を示す数字と同じなのです。
銀座4丁目の交叉点を中心に半径600メートルの円を描けば、銀座1丁目から8丁目までがすっぽり入ります。
新宿でも、東口駅前から、歌舞伎町の先、ラプホテル街がちょうど600メートルの距離にあたるのです。
人間の歩行距離の限界、商圏の限界などのさまざまな理由が重なって、いままでは街は半径600メートルの外側に広がらなかったもののようです。
渋谷も同様で、宮益坂、道玄坂、公園通りのそれぞれ頂上付近が、ハチ公前広場から約600メートルの距離です。
・・・渋谷のことをよくご存知の方なら、ほんの数年前までは、たしかにそのあたりが街のはずれだったことを覚えていられることでしょう。
渋谷には、若者が好んで集まる店が、デパートという巨大な店から露天商のような小さな店まで、そして業種も飲食店や超高級ブティックなど、実に雑多に集まっています。
それらの店のうち、OL1年生があこがれていると答えた店のベスト40を示したものがあります。
店の規模や業種を問わずに聞いているので、かなりいろいろなレベルの店があがってきています。
・・・もちろん、票数が多いのは、誰でも入りやすい、「たまたま店」の性格が強い大型デパートやファッションビルです。
具体的には、パルコ、西武百貨店、109、丸井などが大量得票を得ています。
しかし、それら数店の大型店を除くと、分衆化の生活動向を反映してか、実にさまざまな店の名が答えられています。
ところが、ある程度人気のある店を地図上にプロットしてみると、街の何ヵ所かにそれらの店がかたまって立地していることがわかるのです。
しかも、それらは、街の中心ではなくて、どれも街はずれにあることがわかります。
若者の人気の雑誌『アンアン』『ポパイ』などで紹介されるような店は、いまやほとんど街はずれの店です。
一般週刊誌でも裏通りの店の特集を組んだものさえあるのです。
「わざわざ店」の時代の到来を、これは如実に物語っているといえそうです。
渋谷という街は、東京の盛り場の中でも、もっとも若者のエネルギーの高い街だといわれています。
・・・もちろん、この渋谷以外にも、原宿・新宿・下北沢などのように、若者をたくさん集めている街はいっぱいにあります。
しかし、原宿は高校生ばかりが目立ち、店舗の種類にもかたよりがにあります。
また、新宿は歌舞伎町という巨大なネオン街があるせいか、若い女性が夜遅くまで歩きまわる雰囲気がありません。
そして、下北沢や自由が丘のような街は、若者の街と呼ばれてはいるものの、いかんせん規模が大きくないために、店のバラエティを欠いているようです。
・・・このように見てくると、西武と東急という巨大流通業が街を底から支え、乗降客数も多く、映画館やコンサートホールなどがいくつもあり・・・
街のすみずみまで若者向けの店が埋めつくしているこの渋谷という街は、さまざまな層の若者の欲求を確実に吸い上げてくれる街の理想的な姿でしょう。
おりしも、ここで日本初の国際映画祭がこの街で開かれましたが、これもやはり渋谷というパワーにあふれた街でこそ実現できたものだといえるでしょう。
・・・このようなわけで、渋谷のさまざまな店を調べることは、いまの若者達のライフスタイルを知るうえで、もっとも適切な方法といえるわけです。
大量生産の画一的商品を中心に扱う大型量販店や、全国どこに行っても同じメニューが出てくる飲食店チェーンには満足できず・・・
わざわざ小さなブティックやビストロを探し求める人が増えているのも、その結果のひとつです。
このような動向を、ひとことでいうならば、「たまたま店」から「わざわざ店」への重心移動と呼ぶことができるでしょう。
「たまたま店」とは、たまたまその店の前を通りかかったので、ちょっと寄ってみたというような客が多い店です。
駅前デパートや大通りの量販店がこれにあたります。
これに対し、駅から遠かったり、開店時間の長さが短かったりして、かぎかぎその店を目指してやってきた客だけで賑わっているような店が「わざわざ店」です。
「街はずれの店のブーム」も、この「わざわざ店ブーム」の一例といえるでしょう。
もちろん、「わざわざ店」というべき要素を持った店は、街はずれにある店ばかりではありません。
そこで、いま、一番「わざわざ店」が多いといわれる東京・渋谷の街を例にとって、その具体的な展開のようすをながめることにしましょう。